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【小説】7話 パルデアの未来を担え

【前話】

6話 ならず者集団?現る

 

 

 

 

 ポケモンリーグ
 それは、ポケモントレーナーが目指す高みの最終地点。ごく一部の認められたトレーナーしか行けない、非常に限られた場所だ。

 

 なぜ急にそんな話をするのか。
 ボクが、今まさにそこにいるからである。

 

「ようこそいらっしゃいました、リンドウ先生。待ち侘びましたよ」
「……校長先生に用があると言われて来たんですけど」

 

 クラベル校長に話があると呼び出され、場所を変えようと案内され、連れて来られたのがここ。もうその時点で、何かあると思うべきだった。

 

 閉鎖された部屋で待ち構えていたのは、威風堂々とした佇まいをした褐色の女性。名をオモダカさんといった。

 

 この人、ポケモンリーグの委員長にしてトップチャンピオンという地位にいる。ガラルでいうなら、かつてのローズさんとダンデさんの仕事を兼任しているようなもの。ついでにアカデミーの理事長らしい。なんだこの人、化け物か?

 

「ええ、問題ありません。私が呼ぶように頼みましたから」

 

 訝しむボクに対して、ニコニコのオモダカさん。その笑顔怖いのでやめてください。
 その背後で、クラベル校長が頭を下げる。嘘は言ってないらしい。

 

「では、なぜ私がここに……」
「単刀直入に言いましょう。貴方にポケモンリーグに所属していただきたい。その勧誘のため、呼び出した次第です」

 

 ポケモンリーグに所属?ボクが?
 話が飛躍しすぎてて現実味が湧かない。困惑するボクを無視して、オモダカさんは話を続ける。

 

「なぜ自分が、とでも言いたげですね」
「まぁ……。心当たりもありませんし」
「無敵のチャンピオンを寸前まで追い詰めた実力者。それだけで十分勧誘に至る理由だと思いませんか?」
「三年前の話ですよ」

 

 確かに、ダンデさんのリザードンをあと一歩のところまで追い込んだ。でも結果は負け。どれだけ惜しかろうと、負けたのだ。

 

「時にリンドウ先生。先日、チャンピオンネモとバトルをして勝ったそうですが」
「……ええ。間一髪でしたけど」
「私は、彼女を現パルデアトップのトレーナーだと思っています。才に満ち、人一倍努力家で、それ以上にバトルへのあくなき向上心がある。彼女のようなトレーナーが増えれば、パルデアもガラルに負けないバトル大国になるでしょうね」

 

 納得の意見だ。ネモがガラルに行けば、ジムチャレンジはおろかトーナメントすら容易く突破しそうな気がしてる。彼女には、それぐらいの資質を感じた。
 そこまで話して、オモダカさんは『しかし』と言葉を翻す。

 

「彼女がトップになるには決定的に欠けているものがある。彼女に足りてない、といえば少々語弊がありますが」
「わかりかねます」
「まずライバル。次いで障壁。強者ゆえの孤独は常に彼女に付き纏います。彼女自身、己を高めるライバルの存在を欲していました」

 

 先日のバトル学を思い出す。授業内のバトルですら、実力を恐れられバトル相手がいない始末。あまりに強すぎるせいで避けられるとは、なんとも皮肉な話だ。

 

「もっとも、最近はそれに近しい人物を見つけたようです。ひとまず安心しました」

 

 アオイのことかな。
 彼女も、ネモに負けず劣らずポケモンバトルの才を感じる。足りないのは経験ぐらいだ。

 

「私の願いは、パルデア中のトレーナーのレベルの底上げ。チャンピオンネモにはその先頭に立つ才覚があります。そして、その彼女が可能性を見出しているアオイさんにも」
「つまり、その手伝いをしろと?」
「もちろん彼女だけではありません。チャンピオンネモに、追いつき追い越そうとする者が増えることは非常に好ましい。若き才能を育むには、優秀な指導者と彼女らが目標とする人物――言い換えれば越えるべき壁が必要なのです」

 

 その役割をボクに担えと。
 オモダカさんの言いたいことは理解できた。物腰柔らかに見えて、並々ならぬ情熱を隠せていない。ボクが断れば、どんな手を使ってでも言うことを聞かせそうだ。そんな圧を感じる。

 

「そんな大層な人間ではありませんよ」
「指導者が完全である必要はありません。苦い経験があるならなお良い。それを教えに繋げられるのですから」

 

 一歩詰め寄り、オモダカさんは不敵に微笑む。
 
「ガラルでのお話はマスタード氏からお聞きしました。チャンピオンダンデを最も追い詰めたと言われる貴方が、なぜトレーナーを引退して道場で燻っていたのかも」
「……あの人が噛んでたか。私をパルデアに呼んだのも、貴方でしたか」
「無理にとは言いません。どうか引き受けていただけますか?」

 

 元々、課外授業でのサポートがボクの役割だ。それにかこつけて、最初から生徒たちのレベルアップに利用する腹だったんだろう。全てにこの人が関係していたということか。
 ボクが何をすれば良いのかはわからない。だが、彼女らの役に立てるならば、ボクの持てる知識と経験を授けるくらいは造作ない。

 

「できる範囲でしかやれませんし、期待に応えられるかはわかりませんが……」
「十分です。貴方には極力学校の外で活動できるよう、業務内容を調整させます。課外授業を終え、私に挑む者たちが現れることを楽しみにしてますよ」

 

 あぁ、プレッシャー……。物腰穏やかそうなのに、この逃れられない感はなんだろう。

 

「貴方も含めて、ね」

 

 彼女が立ち去る際に漏らした言葉を、ボクは聞き逃さなかった。その短い言葉に込められた圧に、ボクは背筋が凍るのを感じた。
 ……やっぱ引き受けるんじゃなかったかも。

 

 

 

 

 


◇ ◇ ◇

 

「……てなわけで、前途多難だよ」
「なんだかパルデア地方も楽しそうだな!まだ出会ったことのないポケモンもたくさんいるんだろ!?」

 

 その日の夜。今日の出来事を話すと、通話先のホップからはなんともポジティブな声が返ってきた。

 

「ジニア先生って人にこっちのポケモン図鑑貰ったけど、見たことない子が百はいたかな」
「すっげ〜!!ガラル帰ってきた時には見せてくれよな、リンドウ!」
「そっちの入国規制に引っかからなければ良いけどね」

 

 ホップはボクの親友。そして、ジムチャレンジで互いに高め合ったライバルだ。彼はもうトレーナーを引退してるが、その関係は変わらない。

 

「そういえば、そっちにもジムはあるのか?」
「あるよ。ガラルほどの規模じゃないけどね」
「ふーん。チャレンジするのか?」
「どうしようかなぁ」

 

 オモダカさんの件は一応引き受けた。が、ジムバッジを集めてリーグ……すなわち彼女に挑むかという話は保留だ。まだ自分の気持ちが決まりきっていない。
 勝ち進む自信がないわけではない。気がかりなのは……。

 

「アイツのこと、気にしてるのか?」

 

 ホップに図星をつかれた。
 ボクは言葉に詰まる。

 

「……そうだね。元気してるかな?」
「前にワイルドエリアで見かけた時は元気そうだったぞ。相変わらず、野生のポケモン相手に稽古してたけど」

 

 かつて、ボクの手持ちの中でも特に力を持った子だ。旅を終えてボクの元から離れ、今ではガラル各地を渡り歩いては自分を磨いている。その経緯は、話せば長くなるから置いておくとして。
 そっか、彼も頑張ってるんだ。

 

「ホップ、ボクやっぱりジム巡りするよ」
「おお、本当か!」
「みんな頑張ってるのに、ボクだけ置いてけぼりは嫌だしね。次そっちに帰る時、あの子を迎えに行けるようにボクも強くならないと」

 

 そしてあの子を迎えに行けた時はもう一度……。今ここで言うにはまだ早い、ボクの密かな野望。それを叶えるためにも、まずは自分自身のレベルアップだ。

 

「ところで、その生徒のレベルアップって何するつもりなんだ?」
「うん。本当それなんだよね」

 

 それよりもまずは、オモダカさんの依頼をクリアする方法を考えるのが先だね。
 どうすりゃいいんだ……?


【次話】

8話 はじめの第一歩

 


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