【小説】8話 はじめの第一歩
【前話】
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「――――それでは宝探し開始。……いってらっしゃい!」
クラベル校長の一声で、生徒たちが一斉に校舎の外へと駆け出す。今ここに、オレンジアカデミー名物の課外授業『宝探し』が開催された。
「凄い盛り上がりだなぁ」
生徒たちの熱狂具合はガラルのジムチャレンジにも劣らないかも。
あっという間に生徒はいなくなり、残ったのは見送りしていた先生ばかり。こうなるアカデミーはちょっと新鮮だ。
「この課外授業はアカデミーの名物だからね。もう昨日の授業から、皆足が浮きまくり!エンジョイしすぎて、勉強に身が入らない子も出てきたりさ」
「セイジ先生。そうですね、確かに心ここにあらずというか」
「しばらくは授業も減るし寂しいね~」
そういえばそうだった。課外授業中はそっちに集中させるため、期間内の授業は少なく設定されている。そもそも課外授業始まったばかりの今だと、みんな授業ほったらかしにしそうだし……。クラベル校長の判断は妥当かも。
「……保健室は忙しくなるんだろうねぇ」
ミモザ先生から漏れた声は……うん。頑張ってください。
◇ ◇ ◇
というわけで、自由時間をもらってボクもテーブルシティを飛び出す。最初のジムに続く西門はメチャクチャ人が多かったので東門から。
西門より少ないとはいえ、こっちもこっちで多いなあ。生徒同士でバトルしたり、次の町目指してモトトカゲを走らせたり。む、こっちにもキャンプはあるのか。カレーを作るわけではなさそうだけど。
「あっ、リンドウせんせーい!!」
とりあえず道なりに進んでいると、結晶のあった場所からアオイがひょっこりと顔を出した。
しかし、まず真っ先にやることがテラレイドバトルとは……。それは個人の自由として、アオイの体には擦り傷掠り傷ができていた。
「どうしたの、傷作って」
「へへー、ちょっと捕まえるの手こずっちゃって」
「……1人で挑んでないよね?」
「失敬な。私にだって友達くらいいますよ」
アオイはぷんすかと頬を膨らませる。だって、無茶しそうだもん。
それはさておき、ミモザ先生の発言の意図がこうして目の前に現れるとは。みんながこうではないといえ、アカデミーにいるより怪我人は格段に増えるだろう。その全てを防ぐのは無理だし、過保護にしたら冒険の意味がないんだろうけど……。
「とにかく、怪我には気をつけてね。保健室の先生は1人しかいないんだから」
「はぁい」
わかってるんだろうか。
「先生はどうして外に?」
「宝探しがどんなものか見ようかなってさ。みんな、思い思いに行動してるんだねー」
オモダカさんに押しつけ……じゃなくて任された仕事もあるし。あれからしばらく考えたけど、やっぱり何をすればいいのかわからない。一度血迷って、学校内で道場開こうとか考えた時は末期だった。違う、そうじゃない。
「アオイは、この宝探しでどんなトレーナーになりたいの?」
「私ですか?うーん、そうだなあ……」
クラベル校長曰く、『宝探し』で探すものは人それぞれだ。その宝は形あるとも限らない。だが、そこで得た宝は今後のトレーナー人生を支えるものになるとか。
とはいえ、いきなり外に放り出されても何もわからないか。アオイは悩み、考える。
「とにかく、強くなりたいです。先生、時間ありますか?バトルに付き合ってください」
「そうきたか。いいよ、1on1でやろう」
アオイの返事は実にシンプル。それでいて抽象的。難しい目標だ。でもボクとのバトルがそれに役立つなら、ボクは喜んで力を貸そう。
周りに被害が出ないよう、ボクたちは広い場所で互いに距離をとる。
「じゃ、お手柔らかに。おいで、ニャオハ!」
「デビュー戦いくよっ、ヒメグマ!」
元気よく飛び出たニャオハは、今日もやる気いっぱいだ。バトルする、と聞いてボールの中で凄まじくアピールしてたからね。
対するアオイのポケモンは……ガラルにはいなかった子だ。ノーマルタイプだから相性は五分なのが幸いか。先ほど捕まえたばかりの子だろう。もう3匹目とは恐れ入った。
「先手必勝!みだれひっか――――」
「ふいうち!!」
ヒメグマが詰めてくるよりもさらに早く、ニャオハは懐に潜り込んで猫パンチ。相手の出鼻を挫くことに成功した。
一の爪を怯ませて防ぎ、続いて二の爪が襲い掛かる。それを、ニャオハは退いて空振りさせた。この素早さこそが彼の真骨頂。相手より先に攻撃を当て、向こうが攻撃する時にはもういない。ヒット&アウェイが信条のポケモンだ。
「続けてでんこうせっか!」
そうしてまた入る。派手さはなくとも堅実に。塵も積もればダストダス――――
「グマァ……」
「ニャッ!?」
攻撃がヒットすると思った瞬間、ニャオハの動きがいきなり止まった。見ると、ヒメグマの目が弱々しく潤んでいる。
「ニャオハ、見ちゃダメ!」
「かかったね、メタルクロー!!」
隙だらけのところに、硬質化した爪が襲う。
しかし、うそなきをこんな風に絡めてくるとは。攻撃技が主体のヒメグマとは一見相性は良くないけど、技も使いようだ。上手く立て直された。
「いやらしいことするね」
「先制技を2つも絡めてくる先生には言われたくないですぅ」
可愛い顔して結構言うね。
「今度こそこっちから!メタルクローのまま連続引っ掻き!」
可愛い顔してえげつないことするね!?
メタルクローは、その硬質化させた爪で切り裂くことで己の攻撃力を高める技。そんな技をブンブンブンブン振り回されたらたまったもんじゃない。
「ニャオハ引いて!もらわないように距離をとって!」
だが、幸いにもヒメグマは鈍足だ。ニャオハのスピードなら十分逃げ切れる。
そう思っていたのも束の間。
「あなをほる!」
地上でのスピードでは勝てないと判断すると、アオイはすぐに指示を変えた。ヒメグマは物凄い速度で地中に身を隠す。
こうなると厄介だな……。ボクの指示は変わらない。どのみち攻撃は当たらないし、ニャオハのスピードが落ちるわけではない。地中からの攻撃をかわし、その隙に反撃するプランで行こう。
とにかく、潜った場所からニャオハを遠ざける。潜って間もない今ならまだ距離がある。大丈夫――
「出てきて!」
「グマァ!」
――じゃない!?
まだ離れてると思ったヒメグマが、ニャオハの足元から飛び出てきてその爪を振り抜いた。
鈍足が関係しない地中とはいえ、ここまで素早く動くとは……。そうか、メタルクローのまま掻いてるからこそのスピードか。
……いや、納得できるかい。ドリュウズじゃないんだから。
ニャオハはフラつきながらも起き上がる。スピード自慢だが耐久には難あり。マズいな、次の攻撃はもう耐えられそうにない。
「まだやれそう?」
「ニャォ!」
どうやら、アオイへの認識を改めないといけないみたいだ。ナメたつもりはなかったけど、彼女が若いのもあって甘くは見てたかもしれない。
この子は強い。あのネモを二度も負かすだけのことはある。
「攻め込むよ!もう一度《b》あなをほる《/b》!今度は回転しながら高速で!」
アオイがヒメグマに求めたのはスピード。回転しながら再び地中に戻ると、ヒメグマの通った後の地面が隆起しだした。
おかげで、地上でもあの子の居場所がわかる。高速で弧を描き、ニャオハを囲むように動いている。
「逃がさないつもりか!ニャオハ、下を向いて!」
彼女の狙いはわかった。この進行速度だと、でんこうせっかでも逃れられない。だったら、上に逃げるまで――――。
「ニャオハ、テラスタルいくよ!このは!」
「こっちもテラスタル!あなをほる攻撃!」
くさテラスタルで威力の上がったこのはを、地面に撃ちつける。巻き起こった突風は、彼の小さな体を勢いよく宙に浮かした。
それと同時に、地中でテラスタルしたヒメグマが飛び出した。弧を描くように地面を進んだことで、その円内の地面を隆起させ、強く吹き飛ばす。この破壊力、間違いなくじめんテラスタルだ。
宙に浮いたことでヒメグマの攻撃自体は避けたが、爆発した地面まではカバーできない。巻き起こった小さな礫が彼を突き上げる。
「効いてる!メタルクロー!!」
「来るよ、準備して!」
もう難しい指示は出せない。耐えなければこのバトルは負け。それだけの話。
でも、ボクに散々噛み付く負けん気のあるキミなら、これぐらい訳ないよね。
ニャオハはボクの声に呼応したのか、空中で体勢を無理やり立て直した。その瞳はいつもの真っ赤じゃなくて、茂る草木のごとく緑で――――。
「全て吹き飛ばせ!このは!!」
「ハニャァァァオ!!!」
さっきよりももっと特大の突風が、大量の木の葉を巻き込んでヒメグマを弾き飛ばした。
効果抜群による2倍ダメージ、テラスタルで1.5倍、そしてさらに特性『しんりょく』で1.5倍の上乗せ。どちらが勝ったかについては……言うまでもないだろう。
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【次話】