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【小説】10話 ヒスイ人の知恵

【前話】

9話 捕獲のすゝめ

 

 学校といえば部活。部活といえば学校。
 新しい科目は無理でも部活ならと思って申請したところ、あっさり通ってしまった。

 

 その名も『ポケモン野外活動部』。宝探しするトレーナーに向けて、野外での活動で役立つ知識を学ぶ部活動だ。
 ……名前にひねりがないって言わないで。


「てなわけで、今日は野生のポケモンを捕まえていこうか」
「いえーい!どんどんパフパフ~」
「わーい!よろしくお願いしまーす!」

 

 やって来ました西1番エリア。

 

 宝探しが始まったばかりというのと、パッと見で何をするのかわからない部活というのもあって、第一回目の活動ではあまり人が集まらなかった。まぁ少ない方がやりやすいし、ある意味は好都合かも。
 そして、来てくれたのはネモとアオイという見知った顔二人。なんだろう、この新鮮味0のメンバーは。
 
「まさかネモまで来るとは思わなかったよ」
「いやー、先生が面白そうなことやるって聞いたら気になって!私もボール投げるの苦手だし!」

 

 こないだアオイから聞いたけど、ネモは本当にポケモンを捕まえるのが苦手らしい。チャンピオンクラスでも苦手なんてことはあるんだなぁ。
 まぁ、それならやりがいがあるというもの。今日はぜひとも、二人にポケモンの捕まえ方をマスターしてもらおう。

 

「じゃあ、早速始めようか。二人はポケモンを捕まえる時ってどうしてる?」
「戦る!」
「合ってるけど、とりあえずその言い方は止めようか」

 

 言い方が物騒なんだよなぁ。
 それはさておき、ネモの答えは正しい。バトルで捕まえるというのは、トレーナーの常識だ。
 彼女の回答に、アオイも続く。

 

「バトルで弱らせる。あとは、状態異常も効果的ってジニア先生が言ってました」
「うん、正解。でも、それだと上手くいかないんだよね?」
「うっ……。だって狙うの難しいし、急いで投げなきゃって焦っちゃうし……」

 

 生物の授業ではこういった知識を教えてくれる。初心者トレーナーにはありがたい、基礎の基礎だ。
 でも、この部活に限れば必要ない。座学では学べない、実戦向けの知識を教えるのが目的なんだから。

 

「逆に言えば、じっくり狙う時間があればいいわけだ」
「そんな簡単にいくんですか?」

 

 習うより慣れろ。これがこの部活のモットー。

 

 ボクはかがんで茂みに身を隠す。狙うのは……あのグルトンでいいかな。
 気づかれないようにゆっくりと近づき、背後からボールを投げる。すると、グルトンはあっさりボールの中に収まってしまった。

 

「すごーい!!バトルもしないでポケモン捕まえちゃった!?」
「あのカルボウを捕まえた時とおんなじ!?」

 

 先日カルボウを捕まえた時に気づいたこと。それは、ポケモンの警戒心が薄れているならバトルの必要はないってことだ。
 そして、それはヒスイ地方という今よりも遥か昔の時代で行われてきた。

 

「これなら、バトルは必要ないでしょ?自分のタイミングで投げればいいし、投げるのが苦手ならもっと近づけばいいわけだからね」

 

 お試しに捕まえたグルトンをリリースして、説明を続ける。
 おお~っと歓声を上げるアオイ。
 対して、ネモは思案顔。

 

「はい、先生!!」
「どうしたの、ネモ」
「草むらでもないと、この方法は使えません!」
「いい疑問だね。その通りだよ」

 

 見晴らしのいい場所。たとえば、砂地や雪原ではこの方法は難しい。ポケモンに見つかってしまえば、逃げ出すか襲ってくるかで、捕まえるどころじゃなくなってしまう。
 そこで、ヒスイ人の知恵その2だ。

 

「これ、二人とも何かわかるよね?」
「オレンのみ、ですよね」
「そう。そしてこれを……」

 

 姿を隠したまま、今度は別個体のグルトンに投げる。
 すると、グルトンはそっちに向かって一目散。オレンのみを黙々と食べ始めた。

 

「お~、食べるのに夢中になってる」
「これなら草むらがなくても近づけるし、多少の足音がしても警戒されない」
「背後を狙うだけよりずっと効果的ですね!」

 

 さすがに障害物が何もない更地は無理だけど……。岩とか木とか、なんでもいいから身を隠してきのみを投げればポケモンの警戒心はグッと落とすことができる。

 

「昔はポケモンバトルが普及してなかったから、こうした知恵を使って捕まえてたんだ。当時はモンスターボールも手作りだったらしいよ」
「それって、今も作れるんですか?」
「ボクも試してみたんだけど、加工は難しかったかな。相当な職人じゃないと」
「なんだぁ、残念」

 

 かつてのヒスイ人はぼんぐりたまいしを使って、モンスターボールを手作りしていたという。今の時代でもそれができたら、生徒も興味を持ってくれるかと思ったけど、実際にやるのはまあ難儀だった。
 素材の違いなのかな?わからないけど、とにかく手作りモンスターボールは現代では叶わない。まぁ、おとなしくフレンドリィショップを使うのがいいだろう。

 

 一応、現代でもボールを手作りできる『ガンテツ』って人がいるけど、彼は人間国宝と呼ばれる伝統職人。その技術がいかに貴重で高難度なものであるかがわかる。

 

「じゃあ、早速だけど二人も実践してみようか。好きなポケモンを――――」
「せんせーい!!イワンコ捕まえましたー!!」

 

 早いねずいぶん。
 ネモはモンスターボール片手にぶんぶんと振り回して、嬉しそうにしている。

 

「さ、さすがだなぁ。ネモは」
「自分のペースでいいからね?」

 

 なんていうか、彼女は色々と規格外だ。これが天才肌ってやつか。

 そこからも、彼女たちの奮闘は続く。アオイは慎重になりすぎてボールの投げるタイミングを逃したり、近づきすぎて逃げられてしまったりと中々に苦労気味。

 

 対するネモはというと、意外と筋が良いのか手際よくポケモンを捕まえていった。ボールを投げるのが苦手なだけで、それ以外は要領自体はいいというか。
 後半から、楽しそうな表情でポケモンの後頭部にボールをぶつけてるような気がしたけど、きっと気のせいだ。大丈夫、彼女がポケモンを大事に思っているのは知っている。

 

 一方のアオイも、なんとかして一匹捕まえることが出来たようで。これでひとまず、活動としてはクローズした。想定よりもずっと早い。日が傾く前に終わることができて良かった。

 

「やったー!!自力で捕まえられたー!!」
「おめでとう。マメバッタは臆病で、バトルしようとすると逃げちゃうからね」
「この子可愛くていいなぁって思ってたんですよー!ゲットできて良かったぁ」

 

 早速この活動が活きたみたい。

 

「いい子捕まえたねアオイ!じゃあ、私のイワンコとバトルしようよ!」
「いいね、やろうやろう!!」

 

 ネモとアオイは早速盛り上がっている。若い子は元気だなぁ。
 バトルを止めるつもりはないけど、最後にひとつ伝えることがある。

 

「あ、ちょっとストップ。ひとつだけ注意事項があるけどいいかな?二人は、今回の捕獲方法を試してみてどうだった?」
「えーと……。バトルしなくていいし、こっちの方が早くていいなあって」
「でも、野生のポケモンにあんなに近づくのは、ちょっと危ないかも……」
「そうだね。効率は良いかもしれないけど、その分ちょっぴり危険度は増す。この方法で捕まえてたヒスイ地方では、ポケモンは怖いものって認識されてたぐらいだからね」

 

 どんな方法にも、良い点と悪い点はある。
 今回の意見はネモのが良い点、アオイのが悪い点かな。

 

 バトルでの加減が難しい場合、弱いポケモンを狙う場合は今回の方法がいいし、逆に生身で近づくのが危険なポケモンはバトルする方が確実だし安全。
 それを二人にはわかってほしかった。大丈夫だとは思うけど、今からバンギラスを生身で捕まえに行くとか言い出さないように。

 

ポケモンは怖い、かぁ。そんな風に考えたことはなかったかも」
「普段は人に慣れてるポケモンばかり見てるけど、野生のポケモンはそうとは限らないからね。怪我の危険だってある。だから、今回の方法を使う時も必ず手持ちのポケモンは用意しておくこと。これが、ボクとの約束ね」
「わかりました、先生!」

 

 うん、いい返事。手段を間違えなければ有用な捕獲法だし、これで二人の課外授業がもっと豊かになるといいな。
 思いつきで始めたことではあったけど、意味はありそうだ。これからも少ない人数でのんびりとやっていこう。

 

 

 

 


 ちなみに、その後のバトルはアオイが勝ったとか。相性不利なのになんで。
 これまた余談だけど、後日なぜか入部を希望する生徒が増えた。これまたなんで。


 

【次話】

11話 セルクルのあま〜い誘惑

 


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