【小説】6話 ならず者集団?現る
【前話】
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「あっ、アオイー!せんせーい!」
テーブルシティに移動したボクたちは、広場でネモと合流した。今まで彼女は、アオイのためにテラスタルオーブを調達していたらしい。
あ、ちなみにバトルは断ったよ。それはもう丁重にね。身が持たないっての。
「これいいの?確か、特別な授業を受けなきゃ貰えないって聞いたけど」
「そこはほら、生徒会長権限ってヤツですよ。アオイなら大丈夫!私が保証する!」
「当てのない保証だなぁ……」
立場上注意しなきゃだろうけど、でもこうしてネモは許可もらってるし……。
ってか、ボクもその授業受けてないけどオーブ持ってるんだよね。
こんなにポンポンとテラスタルオーブって渡して大丈夫なの?ボク何も聞かされてないけど、急に呼び出されて怒られたりしないよね?
「ところで、アオイはクワッスを選んだんだ?」
地方特有の俗にいう御三家は、その育てやすさから初心者にオススメされやすい。アオイも、こっちに越してきたということで御三家を一匹選んだみたい。
……そういえばボクのニャオハ、元は生徒に渡す用のポケモンだったとか。初心者にとてもオススメできない状態だったとはいえ、ボクが貰っちゃって少し罪悪感。
「はい。じっくり決めようと思ったけど、この子の熱烈なアピールを受けて……」
「そうなんだ。でもごめんね、ホゲータと二匹から選んだんでしょ?」
「事情は校長先生に聞きました。さっきのバトルでも先生と息ぴったりでしたし、あれなら納得です。それに、たとえ誰がいても私はクワッスを選んでましたよ!」
それはなによりだ。アオイに抱えられたクワッスは、青の頭髪を整えながら自慢げな表情。小さいながら、自信たっぷりで頼もしそうだ。これなら強く育つかも。
「あれ、じゃあ残りのホゲータは?」
「わたし!」
「……ネモはポケモン持ってるよね?」
「校長先生に許可は取ったよー。アオイと一緒に再スタートしたくって!」
嬉しそうなネモに、少しだけ照れくさそうなアオイ。うん、この二人はいい関係になりそうだ。
パルデアの未来は明るい。
「ってわけだからアオイ!早くテラスタル試そう!私が相手してあげるから!」
「あっ、待ってよネモー!」
そうこうしてると、二人とも走って行っちゃった。テーブルシティの心臓破りの階段をものともせずに、アオイは駆け出していく。
うーん、あれは強フィジカル。
……あ。そんなこと思ってたら、ネモが途中で止まった。あの子、意外と体力ないのかな。
「大丈夫?」
「ひぃ、ふぅ……。アオイは走るの速いなぁ。ビックリしちゃった」
「ボクはむしろ、三分経たずして息切れしてるネモに驚いてるよ。ほら、ゆっくり行こ?」
「あ、ありがとう先生」
気を取り直して、ゆっくりと歩き出す。にしても、アカデミーは立地が最悪だと思わんかね。クラベル校長とか、毎日ここ登ってるのかな。
そんなことを考えながら階段を上っていくと、何やら言い争っている声が聞こえた。アオイもその渦中にいるみたいだ。
……まーた、トラブルの予感。
そこにいたのは、赤と青の混じったショートヘアに、丸眼鏡をかけた女の子。モフモフのイーブイバッグ可愛いなぁ……じゃなくて。
そしてその子を庇うアオイ。その二人に絡む星型眼鏡ヘルメット三人組の変な生徒たち。という構図が出来上がっていた。
「あーっ、スター団!何やってんのー!」
「知り合い?」
「やんちゃな生徒の集まりだよ。もう、まーた無茶な勧誘してー!」
そう言って、ネモが三人の前に立ちはだかる。
さすが、生徒会長っぽい。
「この子とバトルするのはわ・た・し!……だからね!順番は守ってもらわないと!」
もう嫌だこのバトルジャンキー。
やっぱり、ボクが止めた方が良さそうだ。
「アオイ、大丈夫?」
「は、はい。あの子が絡まれてて、それを見かけたんですけど」
なるほど、助けようとしてたんだ。確か、あの子の名前は……ボタンだったかな。一年生だ。
そういうことなら、ボクも見過ごせない。ボクもネモの隣に並ぶ。これで、三対三だ。
「もう……。その子を勧誘したいだけなのになんか人数増えてるし。ナメられてんの?デルビル!」
「このままだと団の面目丸つぶれ!こうなりゃ、勝負するっきゃなくなくない?シルシュルー!」
「だね!生徒会長はともかく、他の二人をソッコーで片付ければ勝機はある!全員お星さまにしちゃえ!ヤングース!」
三人がそれぞれのポケモンを繰り出し、こちらに突撃してくる。でも動きは単調だし、パッと見育ち方は並。
これなら問題ない。
「マリル!足元にバブルこうせん!」
「速攻で決めるよ!パモ、地面に向かってでんきショック!」
マリルの攻撃で侵攻を止め、地面が濡れたところにパモのでんきショックが襲いかかる。水を伝って電気が広がり、三匹をいっぺんに怯ませることに成功した。大きな攻撃のチャンスだ。
「アオイ!せっかくだからテラスタルのお試ししちゃえ!」
「う、うんっ!いくよクワッス、テラスタル!からの〜、みずでっぽう!」
しれっと実験台的発言をしたネモに続いて、アオイはテラスタルオーブを起動する。みずテラスタルで強化されたみずでっぽうを喰らってはひとたまりもなく、三匹まとめて吹き飛ばされた。
まぁ、ここまでしなくても良かったと思うけど……。ともあれ、あっさりと決着はついた。これで三匹とも戦闘不能だ。
「待って。新顔ちゃん強すぎない!?」
「オ、オレらがお星さまになっちゃった!?」
肩をがっくりと落として、うなだれるスター団。さて、この子たちどうしようか。やはりクラベル校長に突き出して―――。
「こうなりゃ逃げるが勝ち!お、おつかれさまでスター!」
「あ、ちょっと待って!」
ボクが引き止めるより先に、スター団三人組は立ち去って行った。変なポーズと、変な決め台詞を残しながら。上手いこと言ったつもりか。
スター団かぁ。エール団みたく、そんなに悪い集団じゃないといいんだけど……そうでもなさそうだよねぇ。
「えと、大丈夫?」
「……あ、うん。その、ありがとございます」
アオイがボタンに声をかける。怪我はなさそうで良かった。
すると、ボクの腰に下げたモンスターボールがカタカタと揺れ出した。
「エフィ」
「どうしたの?エーフィ」
エーフィがボールから飛び出し、ボタンの足元まで駆け寄った。フンフン、と品定めするようにボタンにまとわりつく。
「あ、ブイブイ……」
「珍しいね。キミが他のトレーナーに興味を持つなんて」
自分から他のトレーナーに寄りつくなんて、初めて見たかもしれない。ひと通りボタンに撫でられた後、エーフィはこちらに戻ってくる。
「あ……」
「イーブイ好きなの?」
「え、あの、はい……。ごめんなさい、勝手に。その、失礼します」
気にしなくていいのに。そう言おうとしたら、ボタンはそそくさとその場を立ち去って行った。残念。今度会ったら、もっとエーフィの相手してもらおうかな。
なにはともあれ、これで落ち着く。ようやくアオイをアカデミーに送り届け、晴れて彼女は転入できたのであった。
……ちなみにだけど、テーブルシティ内で勝手に私闘をしたとして、あの後ボクはクラベル校長にめちゃくちゃ怒られた。
今度からは、トラブルを見かけたらまずは報告しよう。社会人の報•連•相。メチャクチャ大事。
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【次話】