【小説】12話 一寸の虫ポケモンにも……?
【前話】
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場に降り立つ2匹。
タマンチュラはコサジの小道を筆頭に、その辺のエリアでも見かけるポケモンだ。ボクも何度か見たことある。
改めて言っておこう。セルクルジムはむしタイプを専門とするジムだ。
「え、ニャオハ!?せんせーい!くさタイプはむしタイプと相性悪いんだよー!?」
アオイの悲痛な声が聞こえる。周りのギャラリーも、この選出には驚きが強いみたい。
「あら、あら〜。くさタイプのポケモン?余裕があるということでしょうか〜」
「考えがないわけじゃないので」
「では、見せてもらいましょう〜。タマンチュラ、とびつ――――」
「ニャオハ、ふいうち!続けて、引きながらこのは!」
タマンチュラが跳躍しようと屈んだところに、ニャオハが高速で潜り込んで一撃。
跳ぼうとした勢いを殺され、行動を止めざるを得ないタマンチュラ。その間にニャオハは引き、ついでにこのはをぶつける。ニャオハお得意の電光石火だ。
とりあえず先制はできた。ここは、こないだのアオイ戦でもシュミレーション済みだ。
「目の覚めるような攻撃ですね〜。驚きました」
「の割には、驚いてなさそうですね?」
「そうですね〜。まずは足を止めましょう。いとをはく〜」
「よけて!」
タマンチュラが真っ直ぐに糸を飛ばし、こちらの動きを封じようとする。
むしタイプの厄介なところは豊富な搦手。こと動きを封じることに長けている。技の通りの悪さと耐久の脆さを、知恵と工夫でしぶとく生き残る。それがむしタイプだ。
だが、それも当たらなければどうということはない。ニャオハのスピードなら、直線的な攻撃を躱すのは容易い。
「たいあたり〜」
「え、速っ――!?」
糸は外した。距離も十分にあった。
だが、ニャオハとタマンチュラの距離はあっという間に潰され、強烈な頭突きを喰らわせた。あの見た目からは想像だにしないスピードで。
「……なるほど。あの糸はフェイクですか。タマンチュラの素早さを補うための」
いとをはくは通常、相手に直接当てて動きを封じるのに用いる。だけどタマンチュラは、それを最初からニャオハの後方狙って飛ばした。
そして地面に粘着した糸に引っ張られることで高速移動。自らを弾丸のようにして突進したと、こんなカラクリだ。これじゃタマンチュラじゃなくて弾ンチュラじゃないか。
「正解です〜。タマンチュラ、とびつく〜!」
「もう一度ふいうち!」
ニャオハが再び飛び込む。さっきと違うのは、タマンチュラに攻撃の準備ができていること。
このままなら、効果抜群の攻撃がニャオハを襲う。カエデさんもそう思ったはずだ。
「今っ!戻っておいで!」
「ハニャォ!」
ボクの合図と同時に、ニャオハは身を翻して尻尾でタマンチュラをはたく。そして、その勢いのままボクのボールに触れ、中に戻っていった。
次はこの子の番だ!
「マリル!アクアジェット!!」
「あら〜?」
ニャオハが戻ると同時に飛び出したマリルは、水の柱を纏って突進。タマンチュラを殴りつけ、再びこちらに戻ってきた。
「不思議な戦法ですね〜。とんぼがえりですか」
「流石に、無策でくさタイプを出したわけじゃありませんから」
むしタイプ専門のジム戦に、わざわざ不利なニャオハを選んだのには、主に二つの理由がある。
ひとつはカルボウの経験不足。いくら相性有利でも、捕まえたばかりでは荷が重いと思った。
そして、もうひとつはニャオハの習得技だ。とんぼがえり然りふいうち然り、彼は自慢のスピードを生かす術に長けている。これなら、苦手なむしタイプにも互角以上に渡り合えるはず。
あわよくばスピードで翻弄して1匹倒せればと思ったけど、流石にそこまで甘くはなかったや。
てなわけで作戦変更。まだニャオハには仕事が残っている。
「いきますよ〜、たいあたり〜」
「マリル、ジャンプ!」
さっきと同じ軌道の、高速たいあたりだ。マリルは尻尾を支えにして高く跳躍。上空からタマンチュラを見下ろす。
「とびはねる!」
上空で高速回転しながらマリルが追突。尻尾でタマンチュラを押し潰した。効果は抜群だ。
マリルの持つフェアリータイプはむし技を半減にする。そして、とびはねるは効果抜群。カエデさんに対して、有利に戦えるといえる。
「なるほど、仕込んできましたね〜。でも、ただで攻撃を受けたわけではないんですよ〜?」
「なっ?」
着地したマリルがしきりに足元を気にしている。
そして、そこにあるのは紫に輝く何か―――
「どくびし……?」
「正解です〜。これでマリルさんの動きを封じさせていただきますよ〜」
「なら、近づけばいいこと!アクアジェット!」
「ひきましょう〜。続けて、いとをはく〜」
まだマリルはどくびしを踏んでいない。それなら、どくびしの撒かれていない相手陣地側で戦えば気にならない。
だけどボクの考えは読まれていた。タマンチュラに攻撃を躱され、纏っていた水が消えたところに糸が絡みつく。
「リル……!?」
「マズい……」
「たいあたり〜」
ドスン!と鈍い音がして、マリルが吹き飛ぶ。ゴロゴロと転がるが、彼女は手足を封じられたせいで起き上がれない。
だが、すぐに次は来る。
「畳みかけましょう〜。とびつく」
「マリル、尻尾を使って跳んで!」
手を塞がれながらも器用に跳躍。先ほどと同じように、マリルはタマンチュラの上を取る。
もう一回とびはねるを喰らわせれば倒せそうだけど……。
「させませんよ〜。いとをはく」
「やっぱ警戒されてるよね。アクアジェット!」
やはり動きを封じに来たか。マリルは水を纏って突撃。放出された糸は、水で弾かれて効果をなさなかった。
地面に突き刺さるように突撃。タマンチュラを吹き飛ばし、さらにマリルは、自分の体を縛っていた糸を弾き飛ばす。
「よし、体の自由が戻った!」
「では何度でも縛りましょう〜。もう一度いとをはく攻撃〜!」
「右手でガードして!」
そう何度も同じ手は食わないよ!
マリルは飛んできた糸を右手だけで押さえつけ、自ら雁字搦めになる。だが、これでいい。もう片方の腕さえ自由なら!
「あら〜?それなら、すぐに糸を切って――」
「そのまま手繰り寄せるんだ!」
左手を添えて、マリルは力一杯に糸ごとタマンチュラを引き寄せる。
その姿は、まるで一本釣りのごとく。釣れたのは魚じゃなくて、虫ポケモンだけど。
カエデさんの指示に従ったタマンチュラが、自分の出した糸を切るがもう手遅れだ。釣り上げられた彼は、空中で無防備に晒される。
「いけっ!アクアジェット!!」
「リイイイルウー!!!」
打ち上げたタマンチュラ目掛けて、マリルは水を纏って高速突進。彼に避ける術はなく、撃ち落とされて先頭不能に陥った。
「よし、まずは一匹!」
予想以上に苦労したが、とりあえず数の有利を取ることができた。タマンチュラがダウンしたと同時に、周りの観客もどっと湧く。
ジム戦は2 on 2。つまり、カエデさんの手持ちはあと一匹だ。だが次に出てくるのは切り札。油断はできない。
「なかなかやりますね〜。委員長の評価もわかる気がします〜」
「どうもです。このままひとつ目ゲットと行きたいですが……」
「それはできない相談ですね〜。私だって負けたくはありませんから〜、おいでクマちゃん〜」
「クマちゃん?」
そう言ってカエデさんが繰り出したのは、クマちゃんことヒメグマ。そう、ノーマルタイプのあのヒメグマだった。
「さぁ、ここからどうころがしましょうか〜」
「オリーブみたいにはなりませんよ……!」
セルクルジム後半戦、スタートだ。
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【次話】