【小説】9話 捕獲のすゝめ
【前話】
○
「では、手を合わせて」
「いただきまーす!」
澄み渡るような青空。見晴らしの良い景色。広がる大自然の中で、ボクとアオイは昼食をとろうとしていた。
向こうのキャンプよろしく、こっちではピクニックが流行ってるらしい。
バトルを終えたところでボクもアオイもお腹を空かせ、こうして遅めの昼食をとっている……ってのが経緯。手持ちのポケモンも、全員が外に出ている。
「んー!先生のサンドイッチ美味しい〜!!」
「簡単なものだけどね。でも、喜んでもらえてなによりだよ」
「バトルも強くて料理もできるなんてズルいですよ先生。私なんて、包丁握ったこともないのに」
「何事も慣れだよ」
ガラルを旅して回ったから、最低限の料理スキルは自然と身についた。
向こうではカレーしか作ってなかったけど、こっちで流行っているのはサンドイッチらしい。カレー用の鉄鍋を背負う日々とはおさらばだ。
「うー。にしても、勝ちたかった。やっぱりタイプ相性かなぁ」
「テラスタル切らない方が良かったんじゃ?」
「メタルクローで攻め続けるのは警戒されると思ったんです。実際、もう一押しで行けそうだったし……。やっぱり今の子達だとくさタイプがキツいなぁ」
アオイは物思いに耽る。
すでに6匹揃える前提で考えてるっぽい。初心者には育てるだけでも結構な難易度なのに、タイプのバランスまで考えて。
バトルをしてても感じたけど、やっぱりこの子のセンスは非凡だ。
「ほのおタイプはどう?この先にガーディとかいるみたいだけど」
「うっ、野生かぁ……」
「何か問題でも?」
「私、ボール投げるの下手っぴで。さっきのヒメグマもテラレイドで弱らせることまでは簡単だったんですけど、捕まえるのに苦労して」
「なるほど、それでその怪我……」
意外な弱点だった。テラレイドバトルなら、やっつけた後ボールを投げれば確実に捕まえられそうなものだけど。あれで苦手というなら、野生はなおさらダメだろう。
意外と、捕獲というのはハードルが高いのかも。ボールを投げ続けるのも体力を使うし、ボール代だって馬鹿にならない。
そういえば、ホップもボール投げるの苦手だったっけか。ボクはというと……。
思えば、マトモにボール投げて捕まえた記憶ないな。ニャオハやマリルみたいに、仲良くなって捕まえたケースがほとんどだ。
「というか、他の子はどうやって捕まえたの?」
「えーと、クワッスは貰ったでしょ。コライドンはサンドイッチあげたらついて来てくれたし、ハネッコはね、歩いてたら頭の上にふわ~っと」
ずーっと気になっていた、緋色のポケモンが『ギャオス!』と元気に吠える。ライドポケモンみたいだが、モトトカゲよりもずっと大きくて何より強そうだ。よくサンドイッチで手懐けたな。
「要するに、一般的な方法で捕まえたことがないんだね」
「仰る通りです。そういえば、ネモも苦手って言ってたなぁ」
……ふむ。ポケモンを捕まえるのが苦手な子多いんだなあ。トレーナーとして必須の技術だけに、なんとかしてあげたい。
「なんか、ついついバトルして倒しちゃうって」
「それはもはや、苦手とかそういう域の話じゃないよね」
うん、彼女は別だな。
それはさておき、アカデミーでそういう授業はやってない。弱らせたら捕まえやすくなるとか、そういう知識は生物の授業で教えてくれるけど。実践するとなると話は別だ。
もしかしたら、そういう授業は需要があるだろうか。でも、勝手に科目数は増やせないし、そもそも授業時間内でポケモンを捕まえる実践までするの難しいし……。
授業以外でそういう時間を作ればいいわけだ。なるべくバトルをせず、ボールを投げるのが苦手でもポケモンを捕まえられる方法……。
「うーん……」
「あっ、先生!!」
「どうしたの―――」
アオイの声で我に返ると、彼女は驚いた表情。彼女の視線を追うと、ボクのサンドイッチが乗っていたお皿が空になっていた。
「カル、カル!」
「……美味しい?」
「ルボゥ!!」
ボクの足元でサンドイッチを貪るのは、見るからにほのおタイプの騎士みたいなポケモン。えぇと図鑑、図鑑……カルボウっていうんだ。
じゃなくて!ボクのお昼ごはんー!?
「うう、美味しそうに食べちゃって……」
「……先生、私の半分食べる?」
「ありがとう。でも、気持ちだけ受け取っておく……」
これだけ美味しそうに食べてると、カルボウを怒る気力もなくなってしまった。ボクのお昼がぁ……。
サンドイッチを全て平らげてしまったカルボウは、満足したのかその辺を元気に走り回っている。野生の子だろうに、なんて警戒心のない子なんだ。ご飯を食べて満足したからかな。
いや、待てよ。
「どうしたの、先生」
いつの間にかニャオハと駆け回っているカルボウに、ボクはボールを持ってゆっくりと近づく。
昔、本で読んだことがある。遥か昔のヒスイという地方では、ポケモンバトルを介さずに、ポケモンを捕まえていた記録があった。
ポケモンバトルが主流じゃない時代だったから、人間が生身でも捕まえられるように当時の人は色々工夫していたみたいだ。
「こっちを見てない時を狙って……」
草むらに紛れば、案外近づいても気づかれないものだ。かがんで背後まで近づき、持ってるボールをカルボウに投げつけた。
体力の削れていない状態。仲良くなっているわけでもない。普通ならまず捕まえるのは難しいが、カルボウの入ったボールは数回揺れると、あっさり止まってしまった。
「すごーい!!捕まった!?」
「うん、いけそうだね」
実践するまでは眉唾ものだったけど、どうやら情報は本当みたいだ。これは使える。
「ありがとうアオイ!ボク、ちょっと用を思い出したからアカデミーに戻るね!宝探し頑張って!!」
「え?ちょ、先生!?」
そうと決まれば、早速校長先生に打診だ。
これなら、生徒たちの役にも立つかも。
そうして準備期間を経て数日後。ボクは、こんなチラシを校舎に貼りつけた。
『ポケモン野外活動部!入部者募集!!』
●
【次話】